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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「今、朝飯を頂戴したと思っていたら、もうお午、これで、またすぐに晩飯。イヤハヤ、食べてばかりいるようですテ」

「どうぞ、食べるのが仕事と思って、御遠慮なく、あれをくれ、これを食わせろと仰っしゃって下さい。さ、御一献」

と、杯をすすめ、銚子を取る。

「やあ、三度三度、こうして結構な美酒と御馳走、夢のように覚えますな」

「ちと、おぬるくはござらんか」

「イヤ、ちょうど頃合」

と、舌鼓を打って、

「ウーム、実に芳醇な御酒だ」

「酒はお好きとみえますな」

「至って好物」

「御隠家様のお心添えで、今日からは量を増しました故、この世の名残りにたっぷりとお過ごしあれ」

郷士の口裏に、ちょっと変な意味が挾まりましたが、酒の甘味に気をとられていて、さりとは気がつかず馬春堂先生、

「いや有難いおことば」

と、お目出度く額をたたいて、

「ならば今日は、ゆるりと頂戴いたそうかな」

「どうか、お心おきなく」

「しかし……」と、ソロソロこの辺から陶然とほろ赤くなって、

「まだお目にもかからんが、御隠家様の指図で、今日から酒の量を増して下さるというのはどういうわけかな?」

「少しばかり心祝いのお印しに」