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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
何を叫ばれても、それがみな符牒なので金吾の耳には一向意味が通じないが、抜け買いの方が片づいて、こんどは細かい地の盗品が処理されるのだということだけは、どうやら分りました。
「さ、洞白の面が出るかな?」
と息を殺していると、右の袖をグイと引ッぱる者がある。釘勘だな。……とソッとうなずくと、またあとから来た者とみえて、四、五人の者がぞろぞろと二人の間に立ちはだかる。
呼ぶわけにもゆかないので、そのままにしていると――一番に振られたのが、
「本阿弥の極めつき、堀川国広の脇差、目貫は白魚に蛇籠、うぶご磨上げなし! ……」
と叫ばれた大名物の刀ですが、所詮、ここで見たのでは、小気味が悪くて、金吾の愛刀心もそそられたものではありますまい。
紙入れ、軸、色鍋島の壺、しゅちんの帯、そうかと思うと金泥の仏像や嫁入り衣裳、またかなり値にもならないガラクタ物まで現れましたが、さて、どうしたのか、金吾と釘勘が目をすえて待つ、出目洞白の面箱という声はあがらない。
すると、市も少しダレ気味になり、混濁した空気に各※(二の字点、1-2-22)の頭もだいぶ疲れたころになって、
「珊瑚! 珊瑚!」