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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
武蔵野のあちこちに出没して、行来の旅人をおびやかす通り魔というのが、そもそも彼には腑に落ちない。
この鍛冶小屋に泊って仮面を盗み去った怪しげな女と、その通り魔と、何か一筋の糸につながるように思われて、
「ことによると、その通り魔というのがその女ではないか?」
暫くムズムズとしているうちに、洞白の仮面を取り返さねばならぬと思う一心と、その怪異な風説の正体をつかもうとする猟奇心が時刻を忘れて、
「そうだ!」
と、思わず彼をしてガバと刎ね起きさせました。
しかし、今夜はいたく疲れています。
終日道を迷い歩いた足のくたびれや何かを顧みると、さすがの彼もまた少し二の足をふむ。
そして、思い直したらしく、
「この間からの風説といえば、何もにわかに、今夜と限ッたことはあるまい」
と、ふたたび枕を引き寄せましたが、今度こそ雑念を払って寝入ろうとするものの如く、夜具を被ろうとした身をのばして、ふッと、行燈の灯を吹ッ消しました。
すると、ちょうど手をついた床の辺りから、何か目に痛いような光がサッと瞳の中へ飛び込んで来たので、
「あっ」
と立ち上がッた途端に、どうでしょう、まぎれもない大刀の鋩子です。