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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
数頭の小荷駄の間にはさまって、道中馬の背に横乗りになっていた手ぬぐい冠りの一人の女が、大の男どもの小胆な慌てざまを制しました。
そういわれて落着いた面々が、問屋場提灯の明りをかざし合って、
「おう、棒を持った小僧が死んでいる」
「死んでいるのではない、気を失っているんだ、気絶しているんだ」
「血がついているじゃねえか、この棒に」
「あっ野槍だ」
「何しろ早くどうかしてやらなくッちゃ……」
などと口々にいって、ある者は荷駄から飛び下り、ある者は合羽をぬぎ、馬子や人足はその人々に持合せの気付け薬はないかと聞き回っている。
それはその連中に任せておいて、手ぬぐい冠りのあだッぽい女は、細口の女煙管とたばこ入を帯の間から取り出して、馬の背に横乗りになったまま、どれ一服という姿に見えます。
この旅人や小荷駄の一行は、その日の昼、八王子の宿を出て、今夜の九刻ごろまでに、川越の城下へ行き着こうとするものです。
どうも近頃、入間川から女影の原付近で、とかく物騒なうわさが絶えないというので、夜旅をかけて武蔵野を横ぎる場合は、立場問屋で出立の時刻をさだめ、同じ方角へ向うものが一団となって群旅するのが慣例となっている。