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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「オ。河豚か」

「は」

「ちと退屈したによって、ぶらぶら城下を見物して来たいと思う」

「主人権太夫こと、公用多繁のため、一向おかまいも申し上げず、重々相済まぬ儀と、蔭ながら恐縮いたしております」

「そんな事はどうでもいい。何分居候の身で出かけたいにも履き物がない、笠がない。それに小遣銭の持ち合わせもない」

「恐れ入ッてござります」

「それを調えて欲しいのじゃ、すぐにな」

「は」

「早くしてくれ。次郎、一緒に来い」

ずかずかと玄関へ出て行きましたから、河豚は狼狽して笠や履き物の支度をしましたが、困ったのは、万太郎がもう一つ無いものに数えた小遣銭のことであります。

御三家の若殿などというものが、小遣銭などを持つものか、持つとしたら幾らふところに入れているものか、その辺の見当もっかず、まさかおいくら要るのですかとも聞き難い。

まごまごしている間に、万太郎はもう式台から降りていて、癇癪をおこし、

「河豚、早うしてくれ」

「はっ……」と、いよいよ当惑したらしく、窮余の一策、自分もあわただしく支度をして、

「手前もお供仕りましょう。主人に代って、御城下を御案内いたしまする」

先に立って門前を出かけると、そこへ、一群の駕と人とが寄って来ました。