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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「お」
と、人を分けながら、連中の仲間にすっぽりと坐り込みました。
「兄貴、ばかに遅かったじゃねえか」
「ウム、ここで落合う約束で、急いでやって来ると、途中で親分に会ったものだからな」
「あ、親分も、この川越へ来ているんで?」
「切支丹屋敷のお蝶のやつが、どこへ影を消していやがるのか、さッぱり当てがつかねえので、さすがの親分も気をくさらしておいでなさる。……だが、やっと今日、博労の口から妙な手懸りを聞き出したんで、これからその方角へ行くというんで別れて来たばかりだ」
と、みんな膝を抱えながら、眼だけは義務のように舞台へ向いておりますが、密々とささやき合っている話の方に、多分な心をつかっていることは、少し緻密な眼でこの一組を注意していれば分りましょう。
そのうちに中の一人が、何気なくうしろを振向いた時、はッと驚いたというのは、自分達が背中を向けている垂れ菰の間から、鋭い白眼が、じッと、この連中に射向けられていたことであります。
「シッ……」
と、たれかが、慌てて稲吉の袖へ知らせをくれた時、舞台の方では、ちょうど前芸のお囃しの賑やかなサンザメキと共に、木の頭がはいって、とたんにザラザラと御簾が下りました。