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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
中入です。
土間の見物や中売りの声が、にわかにガヤガヤしはじめると共に、楽屋の内でも足の踏み場もないような混雑。
ここ大入りつづきで、ほくほくものの太夫元は、この興行に見込みがあると見て、旅先から手踊りの女芸人を数名買い込んで来て、粂吉の前座に景気をつけている。
その白粉ぎたない女達が、鏡台をならべて、脱ぎ捨てた衣裳のなかに行儀わるく坐っている所へ、すしを食べ散らした錦出の大皿や、たばこ盆や、団扇や、乱れ箱やらが雑然と同居していて、舞台と楽屋の間を往来する道具方の黒い足が、それをまた感傷なくズカズカと踏んづけて通ります。
お粂の嵐粂吉は、その突き当りの二畳ばかりな狭い場所に、一枚のビラ幕を下げて鏡台をひかえていましたが、そこへ一人の出方が腰をかがめて、
「太夫さん、妙な子供がやって来て、熱海に居たお粂さんに会いに来たんだといっていますが、お知り合いなんですか」
もろ肌を脱いで、刷毛をはいていたお粂は、それを聞くとニッコリ笑って、
「来たかえ? あの山男のような子だろう」
「そうです、太夫さんから何か言伝がしてあるそうで」
「あ。ここへ、連れて来ておくんなさいな」