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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
そこは自由な天地。
地上の楽園であります。
私たちは、その自由な山の教会へ、小石川の牢獄からヨハン様をお迎え申し、今また貴女様をお迎えに来たものです。そしてあなたを中心に、ヨハン様をそのうしろだてに、夜光の短刀をたずねようという仲間一統の申し合せなんでございます。
――久助はこう話し終って、
「この上は、私がお供をして、山へ御案内いたします。そして、ヨハン様にお会わせするのが久助の役目でございます。――小仏の沢で会合した仲間達は、あれから秩父の天童壇へまいっているはずでございます。今夜はここでごゆるりと体をやすめて、明日は早朝に立つことにいたしましょう」
彼はひとりでのみこんで、そこへお蝶の夜具をのべ、自分は隣の部屋へさがって、一方の角柱へ礼拝して、ふッと行燈を消して寝てしまいました。
疲れているので、お蝶もこの家を出る勇気はありません。と言って、久助のことばにまかせて、奥秩父の教会とかへ行ったものだろうか、それとも行かない方がいいだろうか。
とにかく、寝て考えることに決めて、明りが消えたあとの蚊帳の波に、静かになって思案しています……
たよる者もなく行く先もなく、自分は暗夜の途方にくれている。