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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

そう言うと尺取は、先にゆく釘抜きのあとを追って、柳から柳へ、見えがくれに尾行だしました。

知ってか知らずか釘勘は、

「ふーム、これが甲斐の少将といわれる柳沢様の甲府城か。二、三百石のお小姓からとんとん拍子になり上がって、一代で十五万石まで築きあげた羽振りは当時すばらしいものだッた。しかしこの頃は、将軍様のお代がわりで、だいぶ風向きが悪くなったという噂だが、気のせいか、城下にも昔の威勢ほどには活気が見えねえようだ」

天主閣を見上げながらスタスタと急いでいます。

尾けてゆく尺取は短気になって、

「ええ、もう場所だの場合だのと、いつまでぐずぐずしちゃいられねえ」

ふところの匕首をにぎりしめて、折あらば彼の背中へ、ドンと行こうとする気ぶりです。

こう短気にかかるくらいなら、今日までの間にずいぶん機会はあったものを、相手が目明し、もし仕損じてはと大事をふんで来たわけですが、今も今とて雲霧にああ言われた仕事の意地――尺取の心はあせらずにいられません。

で、自然と、その足どりの無理や挙動が、先に行く釘勘に悟られたのはぜひもないわけです。

「ははあ」

釘勘は片腹いたく思いながら、