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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「また尺取のやつが尾けて来たな。大体、尾けるというのはこっちの本職だのに、逆手におれをつけて来るなんて身のほどを知らねえ野郎だ、――よしッ」
外濠の広場を斜に抜けて、土手になった石垣の角から左の小路へ早足に曲りました。
尺取も飛鳥のように向うへ抜けて、石垣の根にペッタリと身をつける。
そして、一顧もせずに急いでゆく先の影を追って、四、五丁ほどもついて行くと、城番屋敷か柳沢家の重臣の邸宅でもあろうか、高い土塀つづきに紅殻塗りの腕木門が向うに見えます。
と、その門前で釘勘が立ちどまったかと思うと、不意にクルリと振顧って、尺取の方を横にらみに、
「おい、毎度御苦労さまだな」
と声をかける。
それを捨科白に釘勘は、腕木門の潜りを押してスッと中へ消え込んでしまいました。
そこで尺取は、どたん場へ来て見事に背負い投げをくわされた形となって、
「あっ、野郎」
と、釘抜きの姿が消えた腕木門まで駆けて来てみましたが、南無三です、そこの門札には、何人の目にも分らせずには措かないようなお役所流の書体で、
「甲府町方衆詰所通用口」
と、認めてある。
これは尺取には飛んでもない鬼門です。