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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「秦野屋じゃねえか、どうしておれの居所が分ったのだ」

と、日本左衛門は意外らしく言って、

「が、とにかく、草鞋を解いてあがってはどうだな」

「ところが、今夜は腰をすえちゃいられないので、この九兵衛のからだもせわしいが、兄貴、おめえも此寺に悠々と飲んでいるなんて、すこし物騒過ぎやしねえか」

九兵衛が声をひそめるのを、

「なぜ?」

と日本左衛門は微笑をふくむ。

「なぜって言って、知らねえのか、尺取が召捕られたのを」

「十太がどじを踏んだことはおれも噂に聞いているが」

「まだそればかりか、今夜は千束の稲がおれの鼻をあかす気かなんかで、金吾へ手出しをしに行ったところが、しびれ薬で参っていると考えたのが大間違い、かえって、先の策に乗って、さんざんな目に会ったろうじゃねえか」

「ふーむ、それは今夜のことか」

落着いては聞いていますが、金吾のために数人の手下があやめられたという事実を耳にしては、彼の心もおだやかではありますまい。

九兵衛はことばを次いで、

「そうさ、つい今しがたの出来事だ、おれはお粂の曲独楽の小屋にいて、それとなく彼女の楽屋を探っていたところが、ちらとそんな噂を小耳にはさんだので、大急ぎで馳けつけてみたが、もう祭は済んで、金吾も稲吉も見当らねえ始末。