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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ズボラがあり、素走ッこいのと薄のろ、陰険なやつとお人好しの性など、箇々その箇性はさまざまでありまして、やはりかれらといえども悪を憎み、不義はそしるところでして、お人好しの率八のごとき、たとい稼ぎは下手にしても、相応仲間の一員として愛護されて生きてゆかれるだけの組織にはなっている。
「前へ出ろ」
その率八をあごで招いて日本左衛門は、
「――今おれが話したとおりなことを、よそで四、五日前に聞いたと言うが、そりゃあ、まったくか」
「まちがいなく耳にしました」
「どこで?」
「溝店の伊兵衛の家で聞いたんで……。今四、五日前といいましたが、それはおぼえ違いで、もう半月ほど前になるかもしれません」
――何を言ッてやがンでえ――と例に依ってクスクス嘲笑しかける者がありましたが、日本左衛門は、それで一笑に付し去ろうとはしないで、なお熱く、
「伊兵衛というと、道中師の伊兵衛のことか」
「そうです」
「あいつなら、たしか、いつぞやの市にも顔を見せていたな」
「旅合羽を着て隅の方に立っていました。あの市からだいぶ後の話なんで……あっしは何の気もなく溝店の近所まで行ったので、その伊兵衛の家をのぞきました」