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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
モンペをはいた若い女が、何かの壺を頭にのせて通りますし、石魚らしい魚をさげてゆく男も見かける。
部落とはいえ、宛たる山の小都会です。なおごらんなさい、突きあたりの形のいい山の裾にかかって、雲霧などの目には、一種不思議なともいえる、三角形の建物がたっています。
「さあ、この小屋が空き物だ。御苦労御苦労、よくお出なさいました、ろくな御馳走もありませんが、今夜はここでゆッくりとお寝みなさい」
自然木の横組み建で、熊の出はいりしそうな戸をあけて、
「さ、どうか御遠慮なく」
と、促します。
新助は二の足をふんでいました。たれより先に、お蝶がものめずらしそうに這入って行きましたので、
「じゃ」と、いや応はありません。
這入ってみると、そんなビクついたものではなく、草を編んだ敷物もあれば、毛皮、夜の具も片すみに積んである。なおのこと、炉には火ダネもはいっていて、くべる薪にも湯茶の道具にも、少しも不自由はないふうです。
「不自由はありがてえ、まるで何かこう、立派な宿屋にでもついたような気がするぜ」
とりあえず、疲れた足をのばし、脚絆をとき、それぞれここに一夜を楽しむことを忘れません。