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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

好色隠居の狒々顔が、苫の間からジロジロとのぞいたり、お角を相手に、お蝶の貞操の代価に露骨な懸引をかわしたりしておりましたが、やがて人肉の取引ができると、

「じゃお蝶ちゃん。私はちょっと、蔵前まで用達に行って来るからね」

と、お角はそこをはずしてしまいました。

入れ交わってゴソゴソと苫舟の中に入って来たのは、お蝶を買った狒々隠居です。

無遠慮に炬燵のなかへ手を差しこみ、蒲団の上に頤をのせて、むさぼる如くお蝶の目元、唇元、襟元の白さなどを、舐め廻すように見ておりましたが、

「なるほどお前は初心らしい。可愛い娘だ、わしはな、佐賀町の穀問屋で、そして大した金持の隠居さ。もう吉原だとか辰巳だとか、あんな尋常な所では遊び飽いたので、わざと売女などを見て歩いているのさ」

この隠居のエヘラ笑いが、お蝶には他愛なく見えました。そして、売女を買いに来ても、おれは金持なんだぞという所を見せたいような気持も露骨に分ります。

お蝶は、お角がお食べといって置いて行った金玉糖を口に入れて、クスッと笑いながら、炬燵の上へ顔を横にする。

「きれいな髪だな、よく結えているねえ」

と、隠居は指を出して猫の髯にさわるように、お蝶の髪の毛を怖々と弄っています。