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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

万一虚偽の入れ札をなすものは下手人同罪であるから左様心得ておくように」

神文誓紙の形式をとった上に、改めて扶持高の者から順々に一名ずつ書記机の前へ呼んで、熊野神紙へその当人の怪しいと疑いを抱いている者の名を書かせる。

思い当りの全くない者は、

(誓って存じ寄り無之)

と書いて棄権しても一向差支えないのですが、後になって、当然知っていながら逃げたと分ると、これまた下手人同罪をまぬかれない破滅を求めるので、うかつなことも書けず当りさわりなく逃げておくのも容易に許されない仕組。

扶持高の順番が一人一人廻ってきて、やがて指名されたのは今井二官です。二官は御封庫破りの騒ぎも寝耳に水でありましたし、それを手引したという疑いをもつ者なども、自身の周囲には思いよるところがないので、そのまま正直に、

(誓って存じ寄り無之)

と、入れ札をすまして引き退がりました。

次には、その愛娘のお蝶の番。

お蝶の濃艶な姿はこんな情味のない席にあって一層衆目をひきながら、静かに書記机の前へすべって、歌でも書くようにスラスラと何か入れ札を了えて父のそばへ戻ってくる。

最後に、八、九人の仲間小者も、型の如くいちいち呼ばれて立って行く。