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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
明りを提げた凄艶な寝巻すがたへ、目をみはって叫びました。
意外です。それは紛れもなく、熱海の隠居藤屋に泊まっていた丹頂のお粂に相違ありません。
けだし次郎ならずとも、お粂の素性を知る者ならば、彼女が今こうして、目明しの家に留守居をしているなどという事は、あり得べからざるものと否定して、信じないかも分らない。
しかし、事実はどこまでも事実で、
「おや、それじゃお前は、あの時、何処とかいう御大家のお嬢さんについていたお供だったのかえ」
と、彼女もひとしく驚いた顔をした様子を見ますと、それは他人の空似ではなく、やはり丹頂のお粂であります。
「それじゃまんざら知らない仲でもなかったね。さあ、早く後ろを閉めて、こっちへ這入ったがよい」
お粂は親切に、火鉢に火を取って与えたり、寝るべき夜具を押入れから出して、自分も再び寝間へはいって、そこの明りを消しました。
「変だなあ、あのお粂というのは、金吾様をたぶらかしていた女賊だという話を聞いていたけど、どうして、釘勘のおじさんの家に隠れているのだろう? 目明しのおじさんが、そんな悪党の女を匿っていていいものかしら」
次郎はもっとお粂と話を交わしてみたいと思ったのですが、彼女がそれを避けるように、すぐ明りを消して寝てしまったので、自分も寝るよりほかはありません。