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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
三尺高い獄門の台が、もうお粂の目には近づいていたのです。彼女も、相応な覚悟はきめて、軍鶏籠の中では頗る神妙に返っておりましたが、夜中、江戸表へ着いたと思うと、意外にも、自分はこの観音堂裏の桐畑の家に運ばれて、
「そのうちに吟味があるかも知れないが、暫く養生をするがいい」
と、釘勘に言い渡されて、夢とも謎とも考えつかない数ヵ月を此家に送っていたものであります。
洗えば、凶状の多い自分の体を、町奉行から公然と、そんな寛大な起居をゆるされるはずもないし、第一、外出がちな釘勘が今夜のように留守な例は屡ですから、逃げようとすればいつなん刻でも逃げられないという事もない。
けれど、人間いつでも逃げ得られる境遇からは、逃げようとする衝動も起こらないし、また、どうして釘勘が自分をこうして置くのかという疑問も、お粂の心を一日のばしに此の家に引き留めて、ついつい、立去る気持も起こさせません。
浅草艶語
枕元で、釘勘らしい声がしたので、次郎がふと眼をさましてみますと、陽は三竿、すでに翌日の午近い刻限です。
「あ……おじさん」
「どうしたい? 次郎」
「寝坊しちゃッた、お帰んなさい」