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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「盗ッ人がそんな事に気を取られているようじゃ脈はねえ。率八、悪くすると、てめえは近いうちに獄門へ顎を乗せそうだぜ」

「な、なぜですか」

「いやに哀れッぽい声を出しゃあがって、仏心があり過ぎるもの」

「これでも随分我慢をしているつもりなんで……実アさっきから、嬶アや餓鬼がどうしたろうかと、それが心配で、足が前へ進みません」

「そうそう、てめえには、女房子があったんだっけな。第一、よろしくねえ男だ、泥棒のくせにして、女房を持ったり子をでかす奴があるものか」

「こんなつもりで持ったんじゃありません。そのうちに子が出来て、食えなくなったから、始めたんです」

「そして、てめえの罪が、女房子にかかって行けば、元々になるじゃねえか。そんなに案じられるなら、もう一度後へ戻って、見届けて来い。その代り、すぐ捕まるぞ」

「お、おどかしちゃ、いけません」

「ははははは。此奴をからかッていると限りがねえ。どれ、飯でも食おうか」

薬師の横丁をのぞくと、菜飯、奈良茶飯、木の芽田楽、蒲焼など、軒並びの八間が団扇をハタかせて、春の淡雪のような灰を綺麗な火の粉の流れる往来へ叩いております。

梅香鬼