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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「相変わらずと言うと?」
「錦霜軒で寝てばかりおいで遊ばします」
「江戸城の庭が拝見したいなどとは、元々、口から出任せの口実と思うたが、寝てばかりいるとは、合点がゆかぬ」
「時折、あの前を通りまして、それとなく声をかけてみまするが、いつも、御家来金吾様と共に、戸を閉した限りでございます。そうかと思うと、夜中錦霜軒に灯りを見る事などもあり、未明に煙をあげている時などもござります。吹上は、火気厳禁のお定め、それとなく、御注意申したくは存じますが、何せい、御三家の若殿、剛兵衛直々には恐れ多い儀と、その由、お側衆にまで申し上げておきました次第でございます」
「そりゃ無益じゃ。近習の中にも、万太郎へ苦言をするほど勇気のあるものはあるまい。よし、よし。そのうちに、吉宗自身から申してくれよう」
なお二、三、万太郎の行動について、剛兵衛に問い糺した吉宗は、しきりと、小首を傾げながら、講書の時刻、書院の方へ足を向けてゆく。
その頃から、妙なうわさを、吉宗はちらちら耳に入れました。
深夜、船見山の方角に怪し火が走った。また曰く、大奥の女中達七、八人吹上の梅林に暮れて帰ると幽鬼に出会って気を失った。