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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「なんだねまア、大きな鼻の穴をしてさ、物貰いのお獅子かと思ったら、その顔は馬春堂じゃないか」
「仰せのとおり、売卜の馬春堂でござるが」
「何がげらげらおかしいのさ、家にゃ、こんな九尺二間でも、格子作りの入り口があるんだからね、用があるなら表から廻っておくれよ」
「ところが、いくら訪ずれても、その表の格子が開かないと来ています」
アア違いない! と気がついたが、ここで折れるのは業腹なので、
「そうさ、初春だもの。開けておけばお獅子だの太神楽だの、お前さんみたいな長い顔だのと、碌なものは舞いこんで来ないから閉めッ放しにしてあるんだよ。ここまで廻って来たついでに、用があるなら、台所から這入っておいで」
朝から縁起でもない馬面が舞い込んで来たとは思いましたが、無理に金吾の寝心地を醒ますでもあるまいと、そっとかれの夜具を直してお粂が茶の間の方へ立って行って見ると、勝手口から廻って這入った馬春堂は、
「姐御、どうぞあちらの御用をごゆっくりと。――手前はお手数をかけずに、ここで頂戴いたしていることにする」
折から長火鉢のわきへ出してあったお重箱の煮〆をひろげて、猫板に乗せてあった一本まで、燗銅壺に這入っております。