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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
その間に一刻の余も費やしたと見えて、ぼやっとした朧月も、いつか江戸城の西の方――紅葉山の襟筋へ隠れかかって、どこともない有明の色が、四林の梢に仰がれて来ました。
その仄明りを頼りにして、針葉樹帯の小道から二つばかりの丘を越えてダラダラと下りて来ると、目の前は広い山芝の平地です。
「意外な所へ出たな、ここは何処であろうか」
「やはり吹上の一部でございましょうが、とんと覚えがございませぬ」
「思い出した、お広芝じゃ。本丸の的場のある平庭じゃ。向うを見い、弓小屋があり、茶亭があり、そして的場の土手が見える……」と指さしているうちに、その手をすくめて、
「やっ、最前の奴があれに居るぞ」
「えッ、どこに?」
金吾もひとみを凝らしました。
「身を隠せ」
「はっ」
ばらばらと、横に駆けた二人は、芝生の平庭に、臥牛形に寝そべっている巨石のうしろに体を潜めて、
「あの弓小屋の裏から歩いて来る者を見ろ」
「オオ、なるほど、二人連れで……」
「察するところ、最前は別々であったが、あの優形の者と体の大きな男とは、同類なのに相違ない」
「ウーム、或いは、そうかも知れません」
「今度こそ逃がさぬように。