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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
そういう通信は、故国の王庁へも通じられていたから今までにも明瞭である。彼が、不明の人となったのは、慶長十七年、旅先で、不慮の禍いに会って、関東の山へ姿を隠してからであった。
なぜ、ピオが山へ隠れたかというと、当時すでに、関東大坂の交渉は風雲険悪になりはじめて来て、その間に、やはり一人の耶蘇会の異国人が、密偵を働いて、関東の機密を、大坂へ通じた事件が発覚した。
その事件が関東方の神経を尖り立てていた時なので、ピオも忽ち嫌疑をうけて、数多の刺客に狙われた。
つづいて、関東の老将軍家康は、突然禁教令を発し、多くのばてれんを斬り、教会堂を毀し、年ごとに迫害の度を強めた。
ピオの山岳生活は知るよしもない。しかし、彼は三年目に、もうほとぼりも冷めたろうという気持からであろう、武蔵の高麗村に姿をあらわした。
狛家の祖先は、彼を優遇した。
けれどピオはそこにも長くいられなかった。忽ち、徳川家の武士の知るところとなって、曠野から赤城の山へ走ったが、途中、安中の城下で、井伊直政の家中の手に捕われてしまった。
江戸城へ送られたその年が慶長十九年。ちょうど関東大坂手切れとなって、大御所の息右大臣秀忠は、関東の兵をすぐって大坂へ発向しようという間際であった。