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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

大丈夫――と見ると、お蝶の姿はむささびのように松林から船見山を越えて行きます。すると、すぐまたその後から、同じ石神堂を飛び出したのは、日本左衛門の憤怒に燃えている姿です。

一陣、二陣、吹き去る風の静寂に返るのを待って、

「よかろう!」

何処かで、こう言った人声がする。

――と共に、堂の裏手や、四方の木蔭などから、熊笹をザワつかせて、影を起した八、九人の中に、松平源次郎と黒鍬組の剛兵衛の顔が見えました。

「早くいたせ、こういう場合は神速でなくてはならん」

四、五の人間は剛兵衛の使っている黒鍬の男と見えて、彼がこう指図をすると、「はっ」と答えながら堂の中へ飛び込み、間道へ通じるそこの床板を釘付けにし、さらに、堂の喜連格子も外から厳重に釘を打って、テコでも開かないようにしてしまう。

「これでよろしゅうございましょうか」

見張りに立っていた剛兵衛と源次郎は、一応、その入口をゆすぶって試みながら、

「よし!」

そして、相顧みて、ニッコと笑い合いました。

「こうしてしまえば、袋の鼠じゃ」

「では、手前は錦霜軒の方へまいりますから」

「御苦労にぞんじます。後刻また……」と予定のように、軽く左右へ別れてゆく。