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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「異国の……」と、万太郎は目を冴えさせて、「異国と申しても、種々、明のものか、高麗のものか、あるいは呂宋刀でござりますか」
「何か分からぬが、短剣じゃ、柄は夜光珠にちりばめられ、なかごは直身、切羽の上に象嵌がある。眼をこらしてよく見ると、青金、赤金、黄金の三色の金であらわした南欧の少女の顔が浮いている」
「おっ……」
「御記憶があるか」
ないとはいえません、夜光の短刀! 万太郎は彼に対する意地も忘れて、思わず膝を乗り出させる。
「見せてください! その短刀を」
「見てもらおうと思って呼んだこと。さ、こちらに置いてあるから、御案内申そう」
吉宗は先に立って、サッと廊下を開けましたが、そこに、うずくまっている人影を見て、
「何者じゃッ」
と、将軍家らしい威凜をもって叱りつけます。
万太郎は彼のうしろに従いて来て、
「あ、それは手前の家臣です」
「なに、万殿の家来とか」
「相良金吾と申します」
「主人思いなやつ、叱って、気の毒であった」
白い足袋の裏が鏡のような大廊下をそのまま踏んでゆく。
その姿を遙かに過して、金吾は竦む足をしずかに急がせました。――何ともふしぎな吉宗の話、主人の身も気づかわれてならない。