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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

と――先に行った吉宗は、鉄のような厚い欅の階段を踏んで、本丸の望楼に上ったようです。

金吾は、それ以上に進み得ず、望楼の下に身を屈めて、ひたすら事なきことを祈っておりましたが、この深夜に、将軍家自身が望楼の上に万太郎を誘って行くなどという行動は、何としても腑に落ちません。

「もしや? ……」彼の想像は彼の肉と血を凍るようにひきしめました。吉宗は、望楼の上に刺客を伏せて、主人を亡いものにしようというのではあるまいか?

そういう例が、支那の歴史などにもないとはいえない。天下の大統をうけついだ吉宗にとって、万太郎の存在は、決して快いものでないことは分り過ぎております。

案じる程のものではありません。上を見ない金吾の杞憂は、あまりにも主人思いな、思い過ごしです。

吉宗に導かれて、望楼の上へあがった万太郎は、太い柱のみで、四壁のない櫓の床に立つと共に、その一方の柱の下に、一灯の明りと、一個の壺と、一個の壇とが、星でも祭るように据えてあるのに目をとめました。

「何であろう? あれは」

「白骨を祭ってあるのです」

と、吉宗は微笑をふくむ。

白骨――と聞いて万太郎は、何となく霧でも吹かれたような寒さを感じました。