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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「留守?」
「ええ、開きませんもの、これが」
「そんなふうには見えない、もう一度、でかい声で呼んでみろ」と日本左衛門。
稼業がらの癖に、留守か留守でないかの見分けがつかないところはさすがに率八らしく、格子に顔を押しつけて、奥へ訪ずれることなおしばし、しかも、返辞のないのは依然であります。
日本左衛門はその間に、かれを残して家の横へと廻っている。それは何の狐疑心でもなく裏の様子を見るための摺足でありましたが、そこまで行かぬ櫺子の窓下へ来かかると、二寸ほど開いている小障子の間から、春陽に蒸れる煎薬のにおいが、薫梅のただよいに似てぷんと鼻へ……、
「そうか――」
かれはお粂が風邪でもひいて寝ているものと直覚しました。で、何気なく前に馬春堂が立った所から四畳半の内をさしのぞいて見て、
「やっ?」
お粂と思いのほか、どこかで薄ら覚えのある若い武士の寝姿が小屏風のかげに。
「……おっ、相良金吾だ?」
思わず口走ろうとする驚きを、ペリッと笠のつばに折って、うしろへ身を退いたかれの口元には、見まじきものを見たような、不快の苦さをゆがめておりましたが、
「親分――」
どんと打つかるように馳けて来た率八がそこへ、