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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「まず、飯でも食べての上の思案としようか」飢えてはいないが冬眠していたかれの習性が催促する。忍川という角の茶屋――外から見ると静かそうな二階があるので、三枚橋を渡ってそこへ入ろうとすると、辻に一本の枯柳があって、柳と細竹に風防けを廻し、掛行燈に算木を書いた大道易者。
びっくりするような、嚏が突然そこから聞こえましたので、万太郎の目がふと白くヒラヒラする机掛けを見ると、雨によごれた布の文字が――馬春堂流神易。
ハタとかれの足が止まる。
万太郎は生れて初めて、六本の黒い劃線を朱がつらぬいている象形に一種の頼りを感じました。久しぶりで世間の灯を見たとはいえ、かれは今、無明の迷路へさまよい出たも同然で、実は悠々と酒食を求めに来たのではない。
相良金吾をたずねに出たのです。帰らぬ金吾の身を案じて、その消息を知らんとして抜け出して来たのです。
また、金吾が取返してくると言って出た、かの洞白の面箱と、その底に秘めておいた「御刑罪ばてれん口書」の綴文の行方も、何とも気がかりでならない。
で遂に番人の目を盗んで飛びだして来たものですが、さて、何を手懸りに尋ね出したものか?