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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
と万太郎は意外な修羅場に遭遇した危険を、むしろ欣ぶふうに、戸棚のうちへ身をひそめます。
「ようがすか、わっしが合図をするまで、外へ出ちゃいけませんぜ……あぶのうございますから……ようがすか」
いい残して釘勘はそこを去った様子。
颱風の中心にあるこの家は、今や、刻一刻と、気味のわるい寂寞さに鳴りをひそめてゆく。そして、どうなることかと息を殺していた万太郎は、胸騒ぐ血を抑えて、いたずらにこの秒間の刻みをジッと屈みこんでいるに耐えなくなったものか、
「そうだ! ……」
飛んだ野心を起しました。
「すさまじい乱闘が起るだろう、血の雨が降るだろう、日本左衛門が死にもの狂いを見せるであろう――ウームそれと釘勘の捕物陣、どんなものか、ひとつ見物したいものだが……」
と、今いわれた言葉を忘れ、スルリと外へ抜け出すと、かれは手探りで勝手の方へ忍び出し、上からダラリと下がっている何かの繩の端に手をかけた様子です。
引窓の繩――
スウと引くと暗やみに、四角い星空が切り抜けて出る……。
引窓を仰いで万太郎が、そこの土竃に片足を乗せかけた途端です。
呼子笛!
――不意に水を断つごとき呼子笛のつンざきが、家のどこかで吹かれたかと思うと、それが釘勘の合図であったものと見え、