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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「わアーっ……」
突如、袋地の八面から一時にあげた捕手の声は、まるで暴風を思わせて家の周囲を駆けめぐり、
「御用」
「御用! 御用!」
すわこそ、
窓の下へ寄っていた三人の黒衣、四ツ目屋の新助、お人よしの率八、雲霧の仁三を取り囲んで、追っ馳け追ン廻す物音の様子であります。
「オオ、始まったな」
万太郎はなんだか愉快になりました。
美殿の厚いしとねに乗って腰元や老臣相手に光る君を写したような生活をしているよりも、かかる所にかかる遊戯をしている時こそ、かれの性格に適しているのでありましょう。
「こりゃ面白い」
と、呟やきながら、引窓の綱を頼りにしてスルスルと蜘蛛上がりに、屋根の上へ抜け出しました。
そこで、瓦の波を這い廻りながら、様子如何に? と見下ろします――ああ綺麗だ! 地境の隣にあたる浄音寺の境内から西がわの長屋の物干、質屋の黒塀のかげ、表通りを見れば忍川の水門尻のあたりまで、点、点、点、点、鬼灯を咲かせたような御用提灯の鈴なりです。
「ウーム、なるほど」
捕物陣といったのは、あの時釘勘の口ぶりとしてチと大仰に聞こえたけれど、かくして眺めれば成程それは立派な一ツの陣形を成しているもので、いわば永沼流とか越後流とかの軍法を縮図にしているような配置。