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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ふふん……日本左衛門は笑いまして、
「命知らずめッ」
振りほどいた両手の力は、あたかも鷲が存分に蛇に体を巻かせておいて一時にパッと寸断する翼の呼吸と相似ている。
だが、釘勘も捕り物の老巧、敢て襷ほどきに刎ね飛ばされるまでシガミついている愚はしません。
「万太郎様、退いたッ」
と、かれの危地だけを救うと、蜘蛛のように屋根の勾配をスルスルと辷って、廂の角に足をふみ止め、
「神妙にしろッ!」
――見ればいつのまにか、かれと日本左衛門の腕首の間には、タランと一本の取繩がつながれていて、釘勘は右の片腕を糸巻にしながら徐々とその弛みを張りつめて行く気構え。
すると、
「あっ!」
万太郎が突然絶叫する。
それと共に釘勘も、自分の力を逆に引かれて、屋根の上へツンのめりました。まるで重い釣瓶を落としたように、手をすりむいてズッこけた繩の先をハッと見ますに、こはいかに、そこにはもう日本左衛門、影も形も見せないで、
「おお」と、驚いて馳け寄ると、しまった! 引窓の口から下へ飛びこんでいる。
「ウウム、抜け道がある! 家の中から抜け道があるに違いない! ちイッ、しまった!」
と、地だんだを踏んだ釘勘。