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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

恐ろしい脅迫。

なまなか光り物を抜いたり月並な凄文句をならべないだけに、かえって底気味の悪いことは、倍で、さすが気の強い当世の蓮ッ葉らしい紫頭巾の娘も、糸の切れた操のように、居すくンだまま逃げ腰が立ち得ません。

その恐怖にみちた瞳を、この暗やみでなく、昼の明るさにこうジッと見合ったならば、日本左衛門も、かの伊太利珊瑚と思い合せて、ははアと、出所の謎を解いたのかも知れない。

と……切通し下から三ツ四ツの灯がチラついてくる。

タッ、タッ、タッ、と足音も少ない人数ではなく――。

「オイ、歩け」

と言ったのは日本左衛門が、早くもそれを知ったからで、うしろから帯あげの腰をグッとつかもうとすると、思いがけない、柔らかい手の温みが蛇の肌を思わせてからんで来ました。

「ねエ、御浪人さん、後生ですから……」

驚く間に、咽ッぽい女の香が、いきなり胸元へ押してきたのです。

「後生ですから、私を見のがして下さいよ。私、あの珊瑚のことが屋敷にわかると、ほんとに、困ってしまうんですから……」

なみの娘なら気を失う男の胸へ、自分の方から甘えるようにすがりついて行った。機敏な態度の変りようが、世間の裏を見抜いている日本左衛門にも舌を巻かせる蓮ッ葉です。