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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「頼みます」

「まあ、あるきねえ」

「だッて、あなたについて来られちゃ、私、なお困るんですもの……助けると思って。ネ、お願いですから」

「そんなに困るなら、番屋へでも奉行所へでも飛びこんだらよかろう」

「そうすれば、なおさら私の自滅ですもの」

袂を顔へ持って行って、肩をふるわせたまま、固くなって動かない。

よくよく窮して、ついに泣きだしたものでしょうか。やはり女は女、最後はいつも涙であります。

だが、猶予ならないのは、ぐずぐずしている間に、坂下から足拍子をとって近づいてきた数点の提灯! しかも、異様奇妙な行列なンです。

カッと炎をこがす一団の火焔行列とも見えました。

見事な紅葉の枝をゆッさりと上にのせて金鋲青漆の女駕、供人は紅白ちりめんの裲襠、いずれも、御守殿風な女ぞろいで、これまた、手に手に紅葉の枝を持っているので、前後を照らす明りをうけた盛観は、むしろ夜行の鬼女の群がりかとも凄かったのです。

しかし、その近づくのを見て、日本左衛門が驚いたのは、その夜中横行の異風でなく、まッ先に立った仲間の手にある、六ツ葵の提灯の印。

紫頭巾が泣きじゃくッているのが幸いでした。