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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「おい、松、よだれが……」
「嘘をつけい」
情炎に溶けた三人の目が、いかにも、いやしげに、お蝶の襟や横顔の肉線をむさぼる如く見つめている。
お蝶はぶるぶるとふるえている。もう、下手にうごけば盲目な魔獣の爪が、肉と黒髪と唇とを、三ツに裂いてあばき合うのは分り切っています。
三人は何か耳と目まぜで囁き合っていたが、やがて源六が、すくみ込んでいるお蝶のそばへ寄って来ると、
「なあお蝶さん、今ほかの者とも相談したんだが、これからおれ達の部屋まで一緒に遊びに来ないか? え、なアに今夜のうちにはきっと家へ帰してやるさ、もう一度この獄門橋を通るのが気味が悪いというなら、おれ達三人で送って来てやろうじゃねえか。な、おいでよ、いいだろう」
猫なで声の優しい裏には、イヤとは言わさぬ眼光と前の弱点をつかんでおります。
「ええ、行ってもいいけれど、私……」
お蝶は袂を噛みながら、くるりと背なかを向けて、またそれを慌てて打ち消すように、
「嫌よ、私……」
歩き出したので源六、玉を逃がしてはと追いすがって、
「な、なぜよ?」
「だって、嫌いな人が居るんですもの」
「お蝶、まだおめえは話が分っていねえのかい。