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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「あっ……」と、火のような息を肩で吐く。
源六の体は俵のようなぶざまな転げ方をして、向うの橋桁で止まりました。お蝶は欄干へ背中をもたせかけて、くずれた髪の毛を指先で梳き上げ、耳に垂れた紅白の根掛けを抜いて捨てました。
七日ばかりの月影が、森を洩れて橋板の上へ、青い光の斑を撒き散らしている。その月光をジッと透かして息を休めていたお蝶は、まだ源六が死に切っていないのを見て、ふたたび懐剣を袖裏に持ち直しました。
自分の膝を源六のみぞおちに当てて、右手の短刀、逆しまに咽喉を狙って落してゆくと、
「うッ、うぬ!」
くわッと目を開いた源六が、断末とはいえ口惜しまぎれの渾力、お蝶の腕へねばりついて、これこそまったくの必死必殺。
「よ、よくもおれを……、うぬ、うぬ、てめえも一緒に連れ込まなけりゃあ、死……死ねるものか!」
一念、遂に相手をねじ伏せて、お蝶の懐剣を噛み奪ると、応報は余りに覿面、かれを抉った月形の刃が、こんどはかえって、お蝶自身の乳を目がけて、グサッと狙い刺しにひらめきました。
お蝶は息をうちへ引いて、
(突かれた!)
血を冷やして、そう思ったことでしたろう。