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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

わき腹に、致命的な深傷をうけている源六、やぶれかぶれ、共に死の淵へ抱き込んでやろうと乳を狙ってきた怖ろしい短刀。

乗しかかッている相手の重圧で、その切ッ尖を交わすこともならなかったのですが、

「がッ――」

と、妙なうめきを揚げると共に、源六は何者かに背中を蹴られて、下の体を飛び越えるなり向うへ俯ッ伏し、手を離れた短刀は、お蝶の顔から四、五寸反れた橋板の上へ、白くななめに突き立っている。

「おう、あぶないところだった」

誰かは知らないがそういった人の手に抱き起こされて、ほっと胸を伸ばしながら、お蝶は初めて意識的に、源六の死と自分の生命の無事な姿をハッキリと眺めましたが、まだ半ばは、夢……うつつです。

「おい、しっかりしなさい。どこも怪我をしちゃいないようだ」

抱かれている者に、体をゆさぶられてハッと吾にかえりながら、

「あ、ありがとうございました」

見ると知らない旅の者です。

「あぶなかったなあ、ほんとにあぶなかった。もう一足わしの来るのが遅かったら、所詮、お前さんの命はなかった」

離したらお蝶のスンナリした姿が倒れてしまいはしないかと、こわごわ支えているのは馬春堂、――かの忍川の枯れ柳に、大道世帯をおき残して、その晩から姿をくらました売卜先生です。