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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

なぜかって、現在、羅馬のばてれんが牢にいるし、今井二官だって、今じゃお扶持お名前を頂いているが、素性を洗えば羅馬から渡ってきた異国人。

……ま、おれの道楽仕事を見ていてくんねえ。盗ッ人の勘というやつは、神様のお目よりたしかな事があるもんだ。それにどうせ、十年でも二十年でも根気にまかせて尋ね出そうとかかッている夜光の短刀、体をマメにすることと、勘というやつを馬鹿にしねえ事がかんじんだろう。まあ一足先きに筑波屋へ宿をとって置いて、おれの吉左右を楽しみに待っていてくれ」

もう一つ、そこで馬春堂の背中をたたきますと、いやも応も待たず道中師の伊兵衛。

「頼むぜ!」

ぷいと引き返して、小溝のめぐる石垣の裾を馳けだし、少し勾配のついた坂道をのぼりましたが、やがてふり仰いだ椋の大木。

ひらりとその下枝へ飛びつくと――。

二、三度、体をぶらぶらさせて、脚絆をつけた片足を引っかけると、猿走り――見るまに枝から横枝の先ッぽへ。

体の重みで、グーと枝の先が弓なりに撓います。すると、宙に吊り下がったかれの足の先が、切支丹屋敷の高塀の峰に、ひょいと、着こうとしては離れ……届こうとしては揺り返される。