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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

といって、遊んで食べられない世の中を、伊兵衛は遊んで通ってきました。いや、遊んでとはいわれない、やっぱり、いつか泥棒という商売を授かっていた。

ですが伊兵衛の渡世ぶりは、日本左衛門一まきとは、だいぶその選を異にしていまして、家を構えず多くの仲間を作らず、決して子分や女をもたないのもかれの特色。

稼ぎもたいがいは江戸ではやらない。

今日浅草にいたかと思えばあしたは奥州街道に、――ゆうべ武蔵野をゴソゴソ歩いていたかと思えば今朝は音羽の筑波屋あたりで、熱燗の湯豆腐に首をつッこんでいようというあんばい。

今では、一本立ちの道中師としても人間の質にも、かなりサビの懸って来た伊兵衛には、日本左衛門の仰山な仕事振りや、かれら一まきの横行が、常に、ちゃんちゃら可笑しく見えてたまりません。

関八州の盗賊が、すべてといっていいくらい、日本左衛門をかしらに頂いている中で伊兵衛ひとりは、

「ふん……青二才が」といった調子で、まだ、あいさつもした事がない。

仲間の異端者!

日本左衛門も、充分、腹にはふくんでいるでしょう。また、かれが伊兵衛を眼中におかない態度を取るにしても、この間うちのいきさつから、夜光の短刀が、双者のさぐり合いとなって行く様子には、伊兵衛の方で、慾以上の熱と興味をもち、やっきとなっていますから、とうてい将来の暗闘