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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

しきりと首をひねっていました。

だが考え及ばないものか、そのまま藤棚の下へ這入って、そこにある陶器床几に腰を下ろし、亀の日向へ上がったように、ぽつねんとして、池の緋鯉の游弋に、無為徒然な春の日を過ごしています。

道中師の伊兵衛の荷物をもって一足先に、この護国寺のすじ向うにある、筑波屋へ泊りこんでいる馬春堂でありました。

「ばかにしやがる」

今さら腹が立ってたまらないように、馬春堂はそこでぶつぶつ呟いている。

「あの野郎、おれに合羽と荷物を持たせて、どこに道草しているのか、きょうであの晩からもう三日目、まだ姿を見せやがらない。第一こッちは文なしなので、茶代はやれないし連れは来ず、宿屋の奴は変な目で人を見るし」

ははあ、それで馬春堂先生、気の腐るまま宿を出て、池辺に亀首を曲げながら、売卜者の身の上知らず、来ぬ待ち人を待ちあぐねているものとみえます。

時をへて馬春堂は一転して、寺領の外の空地に小屋を建てならべている御開帳あてこみの見世物の景況を、いちいちひまつぶしに見てあるいている。

江の島の貝殻寄せ。亀市の活人形。長崎のビードロ細工。火事と血だらけな絵巻をならべて、数珠を持った坊主頭が、しゃがれ声を張りあげているのは、いつも人立ちの多い地獄極楽の見世物。