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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
お隣を見ると脂粉の娘が、金糸と銀糸にかがられた若衆姿で、槍流しの水独楽とか何とかをはやし、むしろの陰の鳴り物では、今たけなわと思われます。
志道軒の孫弟子なにがしの辻講釈、冬の陣における真田父子の働きぶりをたたきにたたいておりますが、戸板にかこまれた木戸銭の影も斑らで、このならびでは一番の不入り、孤城落日のところだなとは、馬春堂が心でおかしく思った半畳でした。
まだある。
居合抜きの歯磨き売り。百獣屋の白熊の檻。
そのほか茶番道化、大道の針呑みまで寄せますと、この一側だけでも、見世物番付ができるくらいで果てしもありませんが、さて、見世物はあきません。
そこに立ち、ここに立ちして、いつかこの他愛のない雰囲気にくるまれると、馬春堂のごとき男すら、身は十か九ツの子供に立ち帰って、そぞろ昔、手をひいて歩いてくれた母や姉が、そこらの人ごみで名を呼ぶような気さえしてくる。
だが、その終りに、一脚の机をすえていた同業の売卜者に出ッくわすと、馬春堂は急に幻滅を感じました。そして、用でもあるような足どりで、スタスタと同じ道を引っ返して来ると、
「あ……おじさん」
と、まろばすような娘の声が、前に見て通った、地獄極楽の木戸口から呼び止めました。