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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「そうとよりほかに思い当りはねえだろう」

「だが伊兵衛、日本左衛門のやつが、それほど根気よく山屋敷に目をつけているとすれば、こりゃだいぶ、仕事が面白くなって行くぞ」

「なぜ」

「考えてみるがいい、何かあの山屋敷に、夜光の短刀の手掛りがあるものと睨んでいればこそ、日本左衛門もあぶない要心をくぐッて、そこを血眼で探っているのだろう。まるでいわれのない所へ、日本左衛門がいつまで手下を廻しておくはずがない」

「ちげえねえ? そう考えりゃ、ゆうべとおとといの縮尻も、こッちにゃ大きな張合いとなる。何しろおれは二、三日息抜きをしたら、また毎晩でも山屋敷へもぐりこんで、こんだアあすこの縁の下を、百日でも半年でも、住居にして探ってみる気だ」

「じゃ、あの洞白の仮面箱の方は、一体どうしておいたものだろう」

「隠しておくのが、身軽で一番安心だが……」

「その隠し場所にまた困るぞ」

「護国寺の札堂――あの辺は」

「物騒物騒」

「じゃ、目白の鶉ヶ岡へでも持って行って、どこかへ埋け込んでしまうとするか」

といいかけた時でした――湯気出しの口につんであった小桶の幾つかが、ガラガラとくずれ落ちて、はッと振返った伊兵衛の目に、そこから逃げた女の影――。