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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「じょうだんじゃあねえ、御三家の若殿が、こちとらずれの仲間に交じって、岡ッ引風情の真似を一緒になってやられちゃア困るじゃねえか」
「だって、万太郎様は、面白いといってきかねえんですからね」
「何が面白いことがあるものか」
「当分、釘勘の部屋の者になろうかって、いっていましたぜ」
「ばかをいやがれ。御勘当にこそなっているが、尾張様の七男、もしや怪我でもあった時にゃ、こッちが飛んだことにならあ」
「困ッた人だなあ」
「で、どっちへ尾けて行った?」
「目白台へ上がって行ったかと思いますが……何しろ私は、お粂の方へ、七、八人追いかけさせてあるんで、ここを動くことができねえんです」
「じゃ何しろ、馬春堂と伊兵衛から先に片をつけるとしよう。お粂の方は駕屋を洗ってみたらほぼ見当がつくだろうから、そう急ぐにも当るまい」
こういいのこすと、釘勘は、もしやと万太郎の身が一途に案じられて、木立に暗い坂道をあえぎあえぎ、目白の台へかけのぼって行く。
…………
どこかに月が出たようです。
月のありかは分らない。
ただ銘刀の刃紋のうような朧夜の雲が空いちめんに蟠っていて、その雲の明るみから見ても、どこかに月のあるような空ですが、月のありかは分らない晩です。