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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ただそれだけの心配じゃないか」
「ウ、まアそういや、そんなもんだが」
「とすれば――めッたに人目にかかる気づかいのないこの御堂の縁の下――おまけに、石神様の足で踏ンまえていてもらえば、他人が探り出してゆく憂いはなし、いよいよ自分たちに必要な時には、また折を見てとり出すし、どっちにしても願ったり叶ったりだと思うんだが」
「ちげえねえ、なるほど、ものはとりようだ」と、伊兵衛もサラリと考え直して、
「じゃ、諦らめてじゃねえ、この石神に預けたとして、引揚げようか」
と、何の気もなく、腰をのばした途端です。
「伊兵衛ッ!」
ガンと、耳の鼓膜をつき破るような声。
「あっッ」
といったが、もう遅い。
飛鳥といいましょうか、疾風迅雷、堂の両側からおどり上がって組みついて来た二人の者。
同時に、馬春堂もまた、賽銭箱に立ててあった蝋燭へ手をついて、コロコロと突ンのめるなり前へ翻筋斗打ったらしく、
「わっッ……」と、ただならぬ声をあげましたが、南無三です。そこは今、蝋燭の灯で深さを測った底知れずの穴――ドタッといった物音をこの世の名残りに、ああ馬春堂先生、「変な日」の予感がとうとう本ものとなって、真ッ逆さまに落ちこんでしまったようです。