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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「いかにもそれは残念だが、まあもう少し考えて見るさ」と、伊兵衛が三尺を解きかけるのを押し止めて、

「おれはかえって、こうなった方が、石神様の御利益だと思う。そう考える方が本当だ」

「ばかにするねえッ」

噛みつくように呶鳴った伊兵衛、この意外な失策に、ジリジリしているので喧嘩面です。

「何が御利益だ、馬鹿野郎め」

「そうガミガミ怒るなよ。あのばてれん口書は、なるほど、夜光の短刀の来歴を、つぶさに書いてある大事なものには違いない。しかし、いわばあれは、それだけを知る端緒に過ぎないもので、夜光の短刀のありかが書いてあるわけでもなければ、秘密の扉をあける鍵にもならない」

なるほど、それは馬春堂のいう通りです。先にはこの男を、半端な悪玉と冷笑かした伊兵衛も、冷静な思慮になると、やはり幾つでも年の上な馬春堂に、一籌を輸さないわけにまいりますまい。

「――いいかな、ところで、あれに書いてあることは、おれもお前も、もう呑みこんでしまっていること、今では、用のない読みからしだ。ただそいつが人手に渡ると、またぞろ、夜光の短刀、夜光の短刀と猫も杓子も騒ぎだすやつがふえて、こッちの詮議にぐあいが悪い。