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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
で、足達者というほどなら、もう七刻ごろには帰って来てもいいはずです。
すると、ようよう二本松の梢が夕焼に染められて来たころ、知らせに行った男を先に、チャリン、チャリン、チャリン、馬の轡の音をさせつつ、野袴に軽装をした武士が駆けつけて来たかと思いますと、
「おお、御苦労」
といいながら、ぽんと馬上から飛び降りました。
これでも、かなり急いで来たものと見えて、使いの者は胸毛の汗をふき、馬は草に渇して、手綱を離されると、すぐそこらをかぎ廻り、青い泡をかんでいる。
その黒駒の鐙や、轡が、余りきらびやかでない如く、駆けつけて来た侍の風采も、すこぶる立派ではありません。
藩のお抱士ともおぼえず、浪人という肌合ではなし、何しろそまつな手織木綿の衣服で、しかも袖の形も一般の武家とは違い、袴の下は脚絆草鞋で、腰の大小を斧と差しかえれば、たしかに木樵と間違えます。
「おおこれだな、足痕は。ウム、やはり例の賽銭荒しをする不埒者に相違なかろう」
武士はそういって、石神堂の中を検めた上、使いの者と最初の発見者へ向って、
「よく知らせてくれた。ところで、少しこの方より駆け遅れて参るが、あとの始末をする者が、やがて二人ほどここへ来るから、お前たちは引揚げて、また呼びにやったら参ってくれ」