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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「来られないのか、ウム、来られない道理だ! いかに鉄面皮でも、幾多の肉親の頼みや故国の使命を裏切り、あまつさえ、神の御名をこの国の幕府へ売って、囚徒の後家を妻にもらい、生涯飼い殺しにされて喜んでいるころびばてれん――。その醜悪な身をもっては、さすがなお前も、わしの前には恥かしくて出られないのであろう」
毒舌は針を吹くようです。
ころびばてれんの二官と、ころばぬばてれんのヨハン。信仰の上だけでも、この二人の間には、犬猿もただならぬ暗闘のあるはずですが、ヨハンの口裏には、何かより以上な宿怨があるやに思われるふしがあります。
「おい、何とか答えたらどうだ。これほど罵られても、お前は恥かしいとは思わないのか」
「ヨハン殿」
二官は初めて五、六歩足を寄せて来て、
「――なんとでもいってくれ。わしの心は神様だけが知っている」
「ばかなッ、お前に神があるか。お前はその醜い肉体を生きのばす扶持米と、囚人の後家と、不良児のお蝶とをうける代価に、とうの昔、たった一ツの神まで売り払った畜生だ」
「…………」
「いい訳はあるまい。あさましい人非人。その風俗をした姿を、羅馬の町の辻に晒しものにして、お前の肉親たちにも見せてやりたい」