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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
そこには、どこからか持って来た筵が一枚敷いてある。
「――おれもずいぶん根気がよかッた。それでも二官のやつめ、夜光の短刀のやの字もおくびに出さねえから、そろそろ根気もつきかけていたンだが、今日はとうとうヨハンのやつと啀み合って、聞く者があるとも知らず、すっかり泥を吐いてしまったから面白い」
ゴロリと寝そべって、手まくらをかいながら、
「さあ……これで二官の腹も読めたし、ヨハンのやつの心底もおよそ見当がついてきたが、さて」
と、そこで将来の方針という辺へ、しきりに思案をめぐらしている顔つき。
まるで、えたいの知れなかった暗中模索に、だんだん目鼻がついてきたような気がする。それは伊兵衛に、巨富の夢をみさせます。――目をつぶッて考えていると、この世のどこかにかくされている夜光のさんらんとした刀の相が、ありありと目にうかんで来るほどです。
「ベッ……」
突然、伊兵衛は顔をなで廻している。巨富一掴の夢がさめて、顔へ落ちた穢い埃を払ったところは、あまりいい図ではありません。
上では、いつになく二官の荒い声と足音につれて、お蝶の泣くような声が聞こえだしていたので、
「ええ、耳がかゆいぞ、こりゃまた何か、いいことを聞く前兆かも知れねえ」