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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

はじめて聞かされた父の系図。

祖先を思うときに現実の自分はひとつの不思議な存在であります。

お蝶もまたわれとわが身を疑いなくしていられません。

ヨハンのいうが如く、父の二官が羅馬の一王家を興すたッた一人の血筋であるとすれば、その人の亡い次の血は、異国にこそあっても、当然、自分ひとつの身に遺されて、自分は王家の姫である。

咄嗟――この場合ではありましたが、お蝶はその話に一種の羞恥を覚えて、そしてまた一方では、

(そんなはずはない! そんなはずはない!)

と聞くそばから否定して、

(わたしはいやしい山屋敷の囲われ者、人にいみきらわれるころびばてれんの娘――羅馬王家の血筋とやら、貴族の姫とやら、そんなわけがあるものじゃない)

と、思いました。

けれどヨハンの話は、諄々と説いておそろしいくらいまじめです、真剣です。

「わかりましたか、お蝶さま」

いつまでも彼女の腕を放さない。

決して、うわの空に出る一言一句とも思われません。

「――そこで私の素性を申しましょう。私はさっきもいったとおり、王家の従僕でございます。代々の家来でございます。ところが夜光の短刀をさがしに、日本へ渡来された二官殿が、幕府の手にのッてころんだ上、名も今井二官と名のり、妻をもち子までもうけて、帰化しているという噂が、本国の法王庁へまで聞えてまいりまし