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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
すでに、書庫の塵と一緒に積まれて焼かれるところを、万太郎がそれだけ引抜いて来て、ひそかに虫ばみの字を拾って読んでみると、重大です。世にも怪奇な事実が、斬られた「ばてれん」の口から語られている。
以来万太郎は十枚綴じの秘密の反古を近侍の相良金吾以外のものには見せていない。で――それについて、切支丹屋敷の内部の者に、ぜひ訊き探ってみたいことがあるのだが、あすこばかりは、絶対に世間と隔離されている邪教人の封獄で、自分の謎を問うことはおろか、そこの世界を覗き見ることもできなかったのであります。
「しかし、御失望なさいますな」
金吾がそう言って、舌打ちをした万太郎へ、何か、思案のありそうな微笑をして見せたのは、かれも共に腕ぐみをして、しばらく無言をつづけた後で――
「必ずあの娘から、例のことを聞き出して見まする。金吾、明日にでも早速参って、トクと工夫をめぐらしましょう」
「イヤ、そりゃ、まずいぞ!」
と、万太郎は期待をはずして、
「邪教風は禁物な当今、かりにも切支丹屋敷の付近を、尾州家の者がウロついていたなどと風聞されては困る、第一、宗門役人が寄せつけまい。それよりは、この万太郎に一策があるがどうじゃ」