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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ほ、伺ってみまする」
「毒をもって毒を制す名案であろうと自分は思うが……」
「それは?」
「盗賊を使うのじゃ! つまり、盗人を雇って手先にあやつる……」と、言いかけた時に、深沈と更けた殿中のうつばりが、新しい柱にヒビが這入ったように、どこかでミリッと聞えました。
ここに万太郎と金吾の話し声だけは、いつまでも時刻を忘れていたが、一城の広さもあろう程な尾州家の建て物は、うし満に近い真夜中の底に沈んでシーンと眠り落ちている。
ぼッ、ぼッ……と大廊下三間置きの金網ぼんぼり、風を吸って、あやうげに明滅しているが、油を注いで廻る宿直の影とて見当りません。
すると――
今、二人のいる一室と講書の間との中廊下を、腕ぐみをした人影が、もうろうと幽鬼の如く、行きつ戻りつしているようでしたが、ふッと明りなき一室の内へかき消えてゆく。
何者?
桐の間から鏡の間へと。
間数を越えて忍んでゆきながらも、ふすまの後は、いちいち元通りに閉めては行くが、畳ざわりの足音はおろか、塵のこぼれる足音もさせない。
そこで、もうろうたる人影は、ニヤリと黙笑の歯を見せたようです。床の間に腰をおろして、暗やみの中でも視覚の利くらしい眼。