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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

髪は麻糸でそッけなくうしろへ結び、なりは手織りの筒袖に、黒のもんぺときまッていて、腰の短い山刀が、この小童の風采を、すこし異様に光らせています。

「おう、次郎さんかい」

「え」

月江の返辞がなくて、うしろで呼んだ者があるので振顧ると、

「お嬢様は、お前をさがしにゆくといって、さっき出かけたきり、まだお帰りがないようだ」

と、顔なじみの、宿の下男が来て、おりんも一緒であることまで教えました。

「へ……そうかい」

次郎は、障子の閉ててある二階を見ながらキョトキョトして、

「どッちの方へ行ったか、おじさん、知ってないかい」

「さあ、下の法斎湯の方へ降りてゆくうしろ姿は見たが、その先は知らないな」

「アア、あの法斎きちがいか」

次郎はふところへ手を突ッ込んで、藁や髪の毛や木の葉でまるまッた鳥の巣を、両手で大切そうにとり出して、

「おじさん、これを預かッといてくんないか」

「なんだいそれは」

「鳥の巣さ」

「鳥の巣は分っているけれど、一体どこで取ったんだ」

「東光寺の欅の木へ登って、やっとおさえて来たのさ――お嬢様に見せようと思ってね。おじさん、風呂場の隅へ仕舞ッといてくんないか」